恐ろし!怪し!もののけ古典講座

妖怪や幽霊、神仏等、怪しいモノが登場する古典作品を紹介します。
高校生のテスト対策や大学受験対策でも役立つように、
古典文法や古文常識を解説します。が、メインはオカルト関連の薀蓄です。
「古典は面白い!」と言う若者が増えると、もののけ達も喜びます。
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尼、地蔵見奉ること(『宇治拾遺物語』より)(4)~「む(ん)」の識別・係り結び(こそ~已然形)の確認~

 今は昔、丹後国に老尼ありけり。/地蔵菩薩は暁ごとにありき給ふといふことを/(老尼は)ほのかに聞きて、暁ごとに地蔵見奉らんとて、ひと世界惑ひありくに、/博打の打ちほうけてゐたるが見て、「尼君は寒きに何わざし給ふぞ」と言へば、/「地蔵菩薩の暁にありき給ふなるに、/(私(=老尼)は)会ひ参らせんとて、かく歩くなり」と(老尼が)言へば、/「地蔵のありかせ給ふ道は/我(=博打)こそ知りたれ。/(あなた(=老尼)は)いざ給へ。/(私(=博打)が)会はせ参らせん」と(博打が)言へば、/「あはれ、うれしき事かな。地蔵のありかせ給はん所へ、/(あなた(=博打)は)我をゐておはせよ」と(老尼が)言へば/「(あなた(=老尼)は)我に物をえさせ給へ。/(私(=博打)が)やがてゐて奉らん」と(博打が)言ひければ、/「(私(=老尼)は)この着たる衣(を)、奉らん」と(老尼が)言へば、/(博打が)「さは、いざ給へ」とて隣なる所へゐて行く。


<前回までのあらすじ>
「お地蔵様が夜明け前に歩き回る」という都市伝説を信じる年老いた尼さんは、そのお地蔵様に会いたい一心でさまよい歩くのだった。そんな彼女に近づいてくるギャンブラーがいた。尼さんとギャンブラーの人生が交錯するとき、そこにはどんな結末が待ち構えているのか?


みみずく:進度が遅い!たった数行訳すだけなのに、どれだけの時間と労力を使ってるんだ!?

リョウキ:そりゃあ、いちいち古典文法の解説をしてたら、進度が遅くなるのは当たり前ですよ。しかも、みみずく先生は古典が苦手じゃ……グフッ……(リョウキの頭に炸裂する便覧の角!!)

みみずく:貴様、営業妨害で訴えるぞ!!

キョウキ:そんなこんなですが、今回もダラダラっとお付き合いください(笑)

博打打ちがお地蔵様の歩く道を知っている!?



地蔵のありかせ給ふ道は/我(=博打)こそ知りたれ。/(あなた(=老尼)は)いざ給へ。/(私(=博打)が)会はせ参らせん」と(博打が)言へば、/「あはれ、うれしき事かな。地蔵のありかせ給はん所へ、/(あなた(=博打)は)我をゐておはせよ」と(老尼が)言へば
【訳】地蔵が歩きなさる道は私が知っている。さあいらっしゃい。(私が)会わせ申し上げよう」と(博打打ちが)言うので、「ああ、うれしいことだなぁ。地蔵が歩きなさる場所へ、私を連れて行ってください」と(老尼が)言うので


みみずく:博打打ちが怪しげなことを言ってますね。ギャンブラーの言うことなんて真に受けちゃいけないのに、尼さんは信じちゃってる(笑)

リョウキ:「俺がパチンコと競馬で1000万円を3倍にしてやるから!なっ、だから、俺に1000万円貸してくれ!」って言う奴にお金を貸してしまうようなもんですね!

キョウキ:ギャンブラーに1000万円を貸したら、3倍どころか全額使い込まれてしまって、途方に暮れた貸し主は一家心中を決意するのだった……ムフフ……

みみずく:物騒な話はおいといて、大事なところだけ解説します。じゃあ、リョウキ、「ありかせ給ふ」を品詞分解して。

リョウキ:「ヒンシブンカイ」というのは、瀕死の人間をバラバラに分解することですか?

みみずく:ふざけるな、マジメにやれ!おまえを分解するぞ!!

リョウキ:すみません、マジメにやります。「ありかせ/給ふ(動詞/動詞)」ですか?

みみずく:残念!

「ありく」は四段活用動詞で、語幹が「あり」、活用語尾が「か・き・く・く・け・け」と変化する。残念ながら、「ありかせ」と活用することはないんだな。正しくは次のように品詞分解するんだ。

ありか/せ/給ふ (四段動詞「ありく」の未然形/助動詞「す」の連用形/四段動詞「給ふ」の連体形)


直後に尊敬の補助動詞「給ふ」を伴う「(さ)せ」は、ほとんどの場合、尊敬の助動詞だ。「(さ)せ給ふ」は、「尊敬語+尊敬語」なので二重尊敬と呼ばれる。最高の敬意を表すときに使うんだよ。

じゃあ、次はキョウキ。「知りたれ」の「たれ」は、どうして「たり」じゃないの?

キョウキ:命令形だから?「知っていろ、ヴォケェッ!!」みたいな?

みみずく:残念!

この「たれ」は、直前の係助詞「こそ」の影響で已然形になってるんだ。「こそ+已然形」で強意を表すんだけど、訳すときは、「こそ」を無視して、已然形を終止形に直して考えよう。だから、「我こそ知りたれ」は「我知りたり」に直して、「私が知っている」と訳せばOKだ。

「いざ給へ」は「さあいらっしゃい」という慣用表現だね。「我をゐて」の「ゐ」は、上一段動詞「ゐる(率る)」の連用形だ。「ゐる(率る)」は、伴う・連れるという意味だよ。

「ん」の識別は大丈夫かな?



みみずく:今まで流してきたんだけど、助動詞「む(ん)」の識別は大丈夫かな?上の文だと、「会はせ参らせん」と「地蔵のありかせ給はん所へ」の2ヶ所に「ん」が使われている。この2つの意味の違いを説明せよ。

キョウキ:文法書には、「ん(む)」の意味が6つ載ってるわ。「推量」「意志」「適当」「勧誘」「仮定」「婉曲」……キモイ!兄ちゃん並みにキモイわ!!

リョウキ:その「兄ちゃん並みに」というのは余計だ!

キョウキ:兄ちゃんに勝るとも劣らないくらいキモイ!!

リョウキ:だから、俺を引き合いに出すなっ!!

みみずく:キモイキモイ言ってないで、下に書いた「む(ん)」の識別を覚えなさい。

「む(ん)」の識別

★文末の「む」
①主語が一人称(私)→意志「~しよう」
②主語が二人称(あなた)→適当・勧誘「~がよい」
③主語が三人称→推量「~だろう」

★文末以外の「む」
①直後が名詞→婉曲「~のような」(特に訳さなくてよい)
②直後が助詞→仮定「~としたら」


これが100%成り立つわけじゃないけど、大体はこれで読めるはずだ。たったこれだけなのにキモイかい?

キョウキ:全然キモくないでーす!兄ちゃんの方が百倍キモイです!!

リョウキ:実の兄に向かって「キモイ」を連呼するな!

みみずく:そこの仲良し兄妹、痴話喧嘩してないで、「会はせ参らせん」と「地蔵のありかせ給はん所へ」の「ん」をそれぞれ文法的に説明して。

リョウキ:痴話喧嘩って何っすか?気色悪いことを言うのはやめてくださいよ……

じゃあ、俺は「会はせ参らせん」の「ん」を説明します。「参らせ」は、謙譲の補助動詞「参らす」の未然形なので、「会はせ参らせん」の主語は偉くない人、つまり話し手自身(=博打打ち)ということだな。ということは、文末の「ん」で主語が一人称なので意志です。

キョウキ:次は私の番ね。「地蔵のありかせ給はん所へ」の「ん」は文末以外で直後に名詞「所」があるので婉曲です。

みみずく:2人とも正解!難しく考えないことだね。

尼さんが博打打ちに着物をあげる約束をすると……



「(あなた(=老尼)は)我に物をえさせ給へ。/(私(=博打)が)やがてゐて奉らん」と(博打が)言ひければ、/「(私(=老尼)は)この着たる衣(を)、奉らん」と(老尼が)言へば、/(博打が)「さは、いざ給へ」とて隣なる所へゐて行く。
【訳】「私に物をお与え下さい。すぐに連れて行って差し上げましょう」と(博打打ちが)言うので、「この(私が)着ている着物を、差し上げましょう」と(尼さんが)言うので、(博打打ちが)「さあ、いらっしゃい」と言って隣の家に連れて行く。


みみずく:「えさせ給へ」は、次のように品詞分解します。

え/させ/給へ (下二段動詞「う(得)」の未然形/使役の助動詞「さす」の連用形/尊敬の補助動詞「給ふ」の命令形)


「え」は、ア行下二段活用動詞「う(得)」の未然形で、「手に入れる」という意味。「させ」は意味的に使役「させる」と解釈して「えさせ給へ」を直訳すると、「手に入れさせなさって下さい」となる。要は、博打打ちが尼さんに「地蔵の居場所を教える代わりに、何か褒美をよこせ!」と言ってるわけだ。

そんな博打打ちに対して、尼さんは「着物を差し上げましょう」と応えています。「この着たる衣、奉らん」の「奉ら」は「奉る」の未然形だけど、直前に動詞がくっついていないので本動詞だ。本動詞の「奉る」は、補助動詞の「申し上げる」の意味ではなく、「与ふ」の謙譲語になる。つまり、「この着たる衣、奉らん」の「奉らん」は、「差し上げましょう」と訳せるよね。

リョウキ:この尼さん、ギャンブラーに騙されている気がします。この後どうなるんですか?

みみずく:それは次回のお楽しみということで!(続く)

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[ 2015年03月25日 07:00 ] カテゴリ:宇治拾遺物語 | TB(0) | CM(0)
プロフィール

みみずく先生@妖怪博士見習い

著者:みみずく先生@妖怪博士見習い

都内(墨田区両国周辺)で家庭教師業を営んでいるみみずくと申します。本ブログでは、妖怪や幽霊、神仏等、怪しいモノが登場する古典作品を紹介します。高校生や大学受験生の役に立つように古典文法や古文常識に触れつつ、もののけ達の跋扈する、ちょっぴり怖くて魅力的な世界を散策します。一人でも多くの方に古典を楽しんでもらいたいと思っています。家庭教師・ライターのお仕事依頼等は、下のメールフォームからお願いします。

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